認知症の家族がいる場合の相続について

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少子高齢化の進む日本では、2012年時点で280万人いると言われている認知症による相続問題が生じやすくなっています。

5年に60万人のハイペースで増加を続ける認知症高齢者数は、2025年には470万人にまで達するとも言われていますので、お年寄りの多い世帯においては相続トラブルが生じるリスクと対策を考えておくべき時代になりつつあると言えるでしょう。

今回は、弁護士事務所への相談としても非常に多い認知症による相続問題について、読者の皆さんと一緒に基礎知識を整理していきます。

認知症の家族がいる時に生じる相続問題とは?

家族の中に認知症の人がいる時の相続トラブルは、「誰が認知症なのか?」によってその内容と対処方法が大きく変わってきます。

《相続人の中に認知症の人がいる場合》

認知症などの病気により正しい物事の判断ができない相続人が要る場合、成年後見制度を使って所定の代理人を立てて遺産分割協議をおこなわれなければ、その協議内容は無効と判断されてしまいます。

また相続放棄でもしない限りすべての相続人が参加すべき遺産分割協議では、認知症だからといって特定の相続人を排除することもできないため、注意が必要です。

この他に意思能力のある他の家族が認知症の相続人の代わりに署名押印を行ったことが発覚した場合は、犯罪行為として罰せられる形となります。

《亡くなった被相続人が認知症の場合》

財産を渡す被相続人が認知症の場合は、基本的に遺言の効力の部分で問題が大きくなるケースが多いです。

例えば、被相続人の残した遺言の内容に不満のある家族の中には、遺言を残した時期を見て「このタイミングでは既に認知症だったのでは?」といった難癖を付ける方々も少なくない実態があります。

また人によっては、認知症になる前と後で複数の自筆証書遺言を作ることで、遺族を混乱させてしまう困った方々もいるようです。

認知症の家族がいる時に行う成年後見人の選任手続き

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家族の中に認知症の相続人がいる場合は、被相続人の死亡によって相続手続きが始まらないうちに、成年後見制度を使って代理人を立てておく必要があります。

《成年後見制度とは?》

精神障害や認知症、知的障害などによって自分で物事を判断する事理弁識能力のない人に、後見人を付けることを、成年後見制度と呼びます。

この制度を利用すると、遺産相続などの一定の不法行為を行う時に、後見人などの同意が必要となる仕組みです。

成年後見制度には任意後見制度と法定後見制度の2種類があるため、被後見人となる本人の症状に応じた選択が必要となります。

《任意後見制度とは?》

本人の判断能力がまだ健在の場合は、予め信頼できる人との間に任意後見契約を締結する形となります。

この制度を利用する時には、被後見人が自ら「自分の判断能力が低下した時にどんなことを手伝ってもらいたいのか?」を決めておきます。

具体的な内容としては、当ページの主テーマとなる遺産相続手続きだけでなく、在宅ケアや病院選定といった支援についても盛り込まれるケースが多いようです。

《法定後見制度とは?》

これに対して既に生じた認知症によって本人の意思能力が喪失・低下した場合は、法定後見制度の対象となります。

こちらの制度を利用する時には、親族や本人が家庭裁判所への申立てを行い、法律で決められた後見人が選任される仕組みです。

法定後見制度には、補助・補佐・後見という3つの種類が存在します。

それぞれの人にどの種類が必要なのかの判断は、医師による診察結果を参考に家庭裁判所が行う流れとなります。

《成年後見人の申立て先と選任手続きの期間とは?》

成年後見人の申立ては、認知症になった本人の住所地にある家庭裁判所で行われます。

申立人になれるのは、本人・配偶者・四親等内の親族のみです。

選任までには数ヶ月から1年ほどの期間がかかりますので、家族の中に認知症の疑いのある人がでてきた時には、成年後見制度利用の検討を含めて早めに行動を起こす必要があると言えるでしょう。

《成年後見人は誰にするのが理想的?》

お互いの利益が相反する被相続人と相続人が成年後見制度を利用している場合は、相続手続きを平等に行うために、特別代理人の選任を改めて行う必要がでてきます。

また遺産分割協議が終わっても成年後見人の仕事が続くことに負担を感じる親族の中には、弁護士や社会福祉士といった専門家に依頼をする方々もいるようです。

《成年後見人を交えた遺産分割》

成年後見人が決まった後に相続開始となった場合は、他の法定相続人から成年後見人に対して遺産分割における交渉の申し入れを行う形となります。

遺産分割協議がまとまった後は、成年後見人を含めた形で遺産分割協議書を作成し、相続手続きが終了する流れです。

弁護士が成年後見人になっていても平等に遺産分割が行われる形となりますが、相続問題の専門家が協議に参加していた方が他の法定相続人の不安は解消しやすくなると言えそうです。

成年後見制度の利用をせずに遺産分割はできる?

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下記の2パターンに該当すれば、家族の中に認知症の人がいても成年後見制度の利用をしなくても良い場合もあるようです。

《分割帰属により遺産分割の必要がない財産》

預貯金、死亡退職金、生命保険の保険金といった相続財産だけの場合は、遺産分割をしなくてもそれぞれの相続人に対して法定相続分で相続手続きが行われる形となります。

そのため、家族に認知症の人がいたとしても、成年後見人の選任手続きをせずに財産を分けることができるのです。

これに対して被相続人の自宅に現金がある場合は、預貯金とは異なるものとして扱うという理由により、遺産分割協議が必要となるようです。

《遺言により分割方法が指定された財産》

正しい方法で作成された遺言書の中で、財産の分割割合や分割方法が指定されている場合においても、成年後見制度を利用せずに相続ができるケースが多いようです。

しかし亡くなった人が認知症だった場合は、遺言書についてもさまざまな注意点やトラブルの原因があると考えられます。

被相続人が認知症だった場合の遺言における注意点

認知症の被相続人が書いた遺言が存在する場合は、下記のポイントで争族トラブルが生じる可能性があるため、注意が必要です。

《遺言の効力》

被相続人が遺言書を作る時には、「遺言をするタイミングで意思能力があること」が求められます。

そのため、遺言者自身に遺言能力が残っていれば、成年後見人などが選任された段階であっても、遺言書の作成は可能となるのです。

しかし認知症を抱えた成年被後見人が有効な遺言書を残すためには、2人以上の医師の立会が必要となるため、注意をしてください。

《遺言能力はどのように判断するのでしょうか?》

遺言能力の判断基準としては、下記の4項目が挙げられます。

・遺言者の認知症の程度と内容
・遺言者が当該の遺言を行うに至った経緯
・当該の遺言を作った時の状況
・当該の遺言の内容は単純なものであるか、複雑であるか

これらの相関関係の総合的な判断により有効と判断された場合は、その内容に従った遺産分割が行われる形です。

《遺言の内容に疑いが生じた時には?》

これに対して遺言の内容に意思能力があるかわからない疑いが存在する時には、遺言書の内容を認めたいと考える相続人と、その内容を無効としたいと主張する人の間で、遺言無効確認訴訟で決着が付けられる流れとなります。

例えば、自筆証書遺言の遺言無効確認訴訟を行う際には、「この筆跡は誰のものなのか?」などの判断もなされます。

また「いつ書かれた遺言なのか?」や「この時期の認知症の症状はどの程度だったのか?」についても総合的な判断が行われる形です。

家族が認知症になった場合に行うべき相続準備とは?

認知症の有病率は、80歳を超えると急激に高まると言われています。

この年代の家族に「もしかして認知症では?」と思われる症状が出た場合は、後々生じる相続トラブルを防ぐためにも、下記の準備と対処を行うようにしてください。

《病院の受診をする》

家族に認知症の疑いが生じたら、まず物忘れ外来や精神科などを受診してもらうのが理想となります。

認知症の治療をせずに放置しておくと、自動車運転や徘徊、交通事故といった相続以外の問題に繋がることもあるため、注意が必要です。

また認知リハビリテーションや音楽療法や薬物療法を受けることにより、症状にブレーキがかかることもありますので、まずは認知症の診断のできる病院に相談をするのが理想となるでしょう。

《成年後見制度の利用を検討する》

認知症などの人を保護するためにある成年後見制度は、相続以外のシーンにおいても利用して損のない内容です。

しかし前述のとおり成年後見人の選任までにはかなり長い期間がかかりますので、認知症の本人も高齢であることを考えると、早めに動く心掛けが家族には必要だと言えるでしょう。

《遺言書を作成する》

遺言書は、お年寄り自身が認知症でなはない元気な段階であっても作成のメリットがあると考えられます。

遺言書の法的効力などの部分で考えると、公正証書遺言の方がおすすめとする専門家が非常に多い実態があるようです。

これに対して認知症の被相続人が口頭で残した遺言は、民法976条で定める一時危急時遺言以外は認められない形となりますので、注意をしてください。

また公正証書遺言と比べて遥かに簡単に作れる自筆証書遺言についても、条件を満たさない場合は無効になることもあります。

《相続問題の専門家に相談をする》

家族の認知症によって遺産分割にトラブルが生じる可能性がある場合は、早めに相続問題に詳しい弁護士に相談をしておきましょう。

成年後見制度などにも詳しい弁護士のお世話になれば、家庭裁判所への手続きなどもスムーズに完了します。

また近頃では、無料相談窓口やメール相談を開設する事務所も増えていますので、認知症による相続問題を抱える方は気軽に問い合わせをしてみてください。

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